副業・兼業における労務管理のポイント

国は、「働き方改革」の一つの施策として、副業・兼業を普及促進しています。
また、コロナ禍の影響による休業や残業の減少により、従業員から副業・兼業をしたいという要望があがってきている会社も多いのではないでしょうか?
こんにちは。はるか社労士事務所の代表・社会保険労務士の益永 治英です。
今回は、副業・兼業における労務管理上のポイントや注意点について解説していきます。

目次

そもそも副業・兼業は許可しないといけないのか?
労働時間の管理はどうすればいいか?
就業規則の規定例
健康管理のポイント
労災保険給付について
雇用保険と社会保険の加入義務は?
さいごに

 

そもそも副業・兼業は許可しないといけないのか?

 

原則は、労働者の自由。労働契約の付随義務で制限可能。

原則として、勤務時間以外の時間をどのように過ごすかは基本的に労働者の自由です。国のガイドラインでも、副業・兼業が適当としています。

しかし、使用者と労働者は労働契約や労働契約に付随する義務を負っているた、下記に該当する場合には、会社も副業・兼業の制限が可能とされています。
  1. 労務提供上の支障がある場合
  2. 業務上の秘密が漏洩する場合
  3. 競業により自社の利益が害される場合
  4. 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
労働時間の管理はどうすればいいか?
労働時間の通算が必要?
本業、副業・兼業ともに雇用関係にある労働者(例:一般の会社員、アルバイトなど)として働く場合は、労働時間が通算されます。そのため、会社の役員や管理監督者、自営業やフリーランサーなどは含まれません。ただし、労働時間の通算の適用がない働き方であっても、長時間労働には気をつけましょう。
法定労働時間は通算される?
法定労働時間については、自社の労働時間と他社の労働時間が通算されます。つまり、労働時間の上限規制である単月100時間未満、複数月平均80時間以内については、法定労働時間を通算して守っていく必要があります。
そもそも副業・兼業先の労働時間はどうやっては把握するの?
労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認します。会社としては、労務提供上の支障や企業秘密の漏洩等がないか、また、長時間労働を招くものとなっていないか確認する必要があります。
労働者から副業・兼業先の何を確認すればいいの?
他社の事業場における、下記の事項は確認しておきましょう。
  • 事業内容、労働者が従事する業務内容
  • 労働時間通算の対象となるか否かの確認
  • 労働契約の締結日、期間
  • 所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
  • 所定外労働の有無及び見込み時間数、最大時間数
  • 実労働時間等の報告の手続
  • これらの事項について確認を行う頻度
労働者の時間管理について
さすがに毎日確認などは大変ですよね。他社における実労働時間は、法を遵守するために把握する必要ですが、把握の方法としては、必ずしも日々把握する必要はなく、法を遵守するために必要な頻度で把握すれば足りるとされています。
例えば、時間外労働の上限規制の遵守等に支障がない限り、下記のように申告等をさせるなどが考えられます。
  • 一定の日数分をまとめて申告等させる(例:一週間分を週末に申告する等)
  • 所定労働時間どおり労働した場合には申告等は求めず、実労働時間が所定労働時間どおりではなかった場合のみ申告等させる(例:所定外労働があった場合等)
  • 時間外労働の上限規制の水準に近づいてきた場合
通算されて時間外労働となる部分は??
自社における労働時間と他社における労働時間とを通算して、自社の事業場の労働時間における法定労働時間を超える部分が、時間外労働となります。
一般的には、通算により法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した使用者が、契約の締結に当たって、当該労働者が他社で労働していることを確認した上で契約を締結すべきことから、同法上の義務を負うとされています。
ただし、通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を結んでいた使用者も含め、延長させた各使用者が義務を負うこととなります。
所定労働時間の通算(副業・兼業の開始前)
副業・兼業の開始前に、自社における「所定労働時間」と他社における「所定労働時間」とを通算して、自社の労働時間制度における「法定労働時間を超える部分の有無」を確認する。
自社における「所定労働時間」と他社における「所定労働時間」とを通算して、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超える部分が時間外労働となり、当該使用者における36協定で定めるところによって行うこととなります。
副業・兼業の開始後(所定外労働時間の通算)
所定労働時間の通算に加えて、副業・兼業の開始後に、自社における所定外労働時間と他社における
所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算して、自社の労働時間における法定労働時間を超える部分の有無を確認します。
※自社で所定外労働がない場合は、所定外労働時間の通算は不要である。
※ 自社で所定外労働があるが、他社で所定外労働がない場合は、自社の所定外労働時間を通算すれば足ります。
通算して時間外労働となる部分は、所定労働時間の通算に加えて、自社における所定外労働時間と他社における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算して、自社の労働時間における法定労働時間を超える部分がある場合は、当該超える部分が時間外労働となります。
割増賃金の支払義務
各々の使用者は、自社における労働時間制度を基に、他社における所定労働時間・所定外労働時間についての労働者からの申告等により、
①まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、
②次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算することによって、
それぞれの事業場での所定労働時間・所定外労働時間を通算した労働時間を把握し、その労働時間について、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分のうち、自ら労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。
割増賃金率はどうなるの?
時間外労働の割増賃金の率は、自社における就業規則等で定められた率(2割5分以上の率)となります。
ただし、所定外労働の発生順によって所定外労働時間を通算して、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が1か月について60時間を超えた場合には、その超えた時間の労働のうち自ら労働させた時間については、5割以上の率とされているので注意が必要です。
簡便な労働時間管理方法の「管理モデル」ってなに??
副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方については、上記のとおりですが、例えば、副業・兼業の日数が多い場合や、自らの事業場及び他の使用者の事業場の双方において所定外労働がある場合等においては、労働時間の申告等や通算管理において、労使双方に手続上の負担が伴いますよね。
このため、副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方について、上記によることのほかに、労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続上の負担を軽減し、法に定める最低労働条件が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法が「管理モデル」と言われています。
「管理モデル」の枠組み
管理モデルは、副業・兼業の開始前に、当該副業・兼業を行う労働者と時間的に先に労働契約を締結していた使用者(以下「使用者A」という。)の事業場における法定外労働時間と時間的に後から労働契約を締結した使用者(以下「使用者B」という。)の事業場における労働時間(所定労働時間及び所定外労働時間)とを合計した時間数が単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定し、各々の使用者がそれぞれその範囲内で労働させることとするものであること。
また、使用者Aは自らの事業場における法定外労働時間の労働について、使用者Bは自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ割増賃金を支払うこととするものであること。
これにより、使用者A及び使用者Bは、副業・兼業の開始後においては、それぞれあらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させる限り、他の使用者の事業場における実労働時間の把握を要することなく法を遵守することが可能となるものであること。
時間外労働の割増賃金の取扱いについては、
○ 使用者Aは自社における法定外労働時間の労働について、使用者Bは自社における労働時間の労働について、それぞれ割増賃金を支払う。
○ 使用者Aが、法定外労働時間に加え、所定外労働時間についても割増賃金を支払うこととしている場合には、使用者Aは、自社における所定外労働時間の労働について割増賃金を支払うこととなる。
○ 時間外労働の割増賃金の率は、自社における就業規則等で定められた率(2割5分以上の率。ただし、労働契約の締結の先後によって所定外労働時間を通算して、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が1か月について60時間を超えた場合には、その超えた時間の労働のうち自社において労働させた時間については、5割以上の率。)とする。
就業規則の規定例
厚生労働省が平成30年1月に改定したモデル就業規則の規定例を参考に載せておきます。
(副業・兼業)
第●条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合
健康管理のポイント
健康診断や長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に戻づく事後措置のことを「健康確保措置」といいます。
この「健康確保措置」の実施対象者については、副業・兼業先における労働時間の通算をするようには定められていません。そのため、自社において、原則として所定労働時間が通常の労働者の3/4以下の場合、健康確保措置の対象者になりません。
ただし、会社が労働者の副業・兼業を認めている場合、健康保持のため自己管理を徹底するように伝えるとともに、必要に応じて「健康確保措置」を実施するなどの対応が望ましいとされています。
労災保険給付について
2020年9月1日より、複数の事業場における賃金額を合算して労災保険給付を算定することになりました。また、複数の事業場で働く就業者の就業先の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して労災認定を行うことになりました。
また、通勤災害についても、労働者が、本業、副業・兼業先の両方で雇用されている場合、1つ目の就業先から2つ目の就業先への移動時に起こった災害については、通勤災害として2つ目の会社の労災として労災保険給付の対象となります。
詳細は、厚生労働省のパンフレット「複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説」をご覧ください。
雇用保険と社会保険の加入義務は?
雇用保険は、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係にある会社でのみ加入となります。
ただし、 2022年1月より65歳以上の労働者本人の申出により、1つの雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、他の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始されます。
社会保険は、事業所毎に判断するため、自社と副業・兼業先などの労働時間の合算はありません。
さいごに
時代のニーズとしては、副業・兼業は容認されているようですね。会社は副業・兼業を認める方向で労務管理を進めていくのが良さそうです。優秀な人材の獲得、退職防止、労働者の社外からの情報、労働者のスキルアップや人脈を活かせるなど会社側にもメリットがあります。
現在、副業・兼業を認めていない、あるいは制度がない場合は是非ご参考になさって頂き、自社に合ったルールを作成してみてください。
※2018年1月に策定された厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」も2020年9月に改定されていますので、ご興味があればあわせてご覧ください。