労働基準法の基礎知識_01_労働条件の明示

こんにちは。

はるか社労士事務所の代表の益永です。

職場における無用なトラブルを根絶したい
という想いから、労働基準法の基礎知識を
お伝えしていきたいと思います。

まず、第一弾は労働条件通知書の明示です。

<労働条件の明示義務>

労働条件の明示義務とは、会社から労働者に対して、
労働時間や賃金などの働くうえでの条件をきちんと
明示しなければならない義務のことをいいます。

労働者とは、正社員やパート・アルバイトなど
関係なく、すべての労働者が対象となります。

これは、労働基準法第15条(労働条件の明示)
に定められていて、罰則は30万円以下の罰金
となっています。


実態としては、すぐに罰則適用ではなく、
労働基準監督署から是正勧告書というかたちで
是正指導が入ることが多いです。

罰金や是正指導への対応が目的ではなく
職場における無用なトラブルを防止する
観点からしっかり対応していきましょう。

<労働条件の明示事項>

労働条件の明示する内容は、何でも良いわけ
ではなく法律上、これは必ず明示してくださいね
という項目が決められています。

必ず明示しないといけない項目は、
「絶対的明示事項」と言われ、具体的な
明示事項は下記のとおりです。

①労働契約の期間
②就業場所と業務内容(雇用期間中の変更の範囲を含む)
③始業・終業の時刻
④所定労働時間を超える労働の有無
⑤休憩時間
⑥休日・休暇
⑦労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換
⑧賃金の決定、計算及び支払いの方法
⑨賃金の締め日及び支払い時期
⑩退職に関すること(解雇の事由を含む)

また、会社で定めをした場合には明示しないと
いけない項目は「相対的明示事項」と言われ、
具体的な明示事項は下記のとおりです。

⑪昇給
⑫退職手当の定めが適用される労働者の範囲、決定、計算及び支払方法、支払い時期
⑬臨時に支払われる賃金、賞与及びこれらに準ずる賃金
⑭労働者に負担させる食費、作業用品その他
⑮安全及び衛生
⑯職業訓練
⑰災害補償及び業務外の傷病扶助
⑱表彰及び制裁
⑲休職

なお、有期雇用契約の場合は、下記の項目の
明示も必要となります。

⑳有期労働契約の「更新基準」のこと
 ※上限の定めがあれば、その内容を含む
㉑無期転換申込みに関する事項及び無期転換後の労働条件
 ※契約期間内に無期転換申込権が発生する場合のみ

<パート・有期労働者の明示事項>

パートタイマーなどの短時間・有期雇用労働者を雇い入れる際には、
上記の事項に加えて、次の事項の書面による明示も必要です。

・昇給の有無
・退職手当の有無
・賞与の有無
・短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る

 相談窓口に関する事項

相談窓口に関する事項については、
見落としされるケースが多いので
特に注意しましょう。

上記の特定事項を文書の交付等により、
明示しなかった場合には、

パートタイム・有期雇用労働法31条により、
10万円以下の過料に処せられるリスクが
あります。

<労働条件通知書と雇用契約書の違い>

労働条件の明示の書式については、
法律上は規定されておりません。

一般的には、

①労働条件通知書の交付
②雇用契約書の作成

といった方法で明示することが多いです。

労働条件通知書と雇用契約書の違いに関する
ご質問もよくお受けしますが、違いを一言で
申し上げますと、

①労働条件通知書・・・会社からの一方的な通知
②雇用契約書・・・双方が合意して締結

といった違いになります。

法律上の労働条件の明示義務は、
労働条件通知書でも雇用契約書でも
どちらでも構いません。

ただし、トラブル防止の観点からも、

雇用契約書を「2部」作成し、
労働者に署名・捺印をしてもらった後
双方で保管しておくのがおすすめです。

なお、労働条件通知書であっても、
「上記契約内容に同意致します。」
などの一文を入れて、

日付や労働者の署名・捺印の箇所を
設けて通知しても良いです。

<明示方法>

労働条件の明示は、書面で交付する
のが原則ですが、

2019年4月からは、書面以外の方法として、
FAXやメール、SNSなどでの労働条件の明示
も認められています。

ただし、下記の2つの条件を満たす必要が
あります。

①本人が希望していること
②出力して書面を作成できる状態であること

なお、当然ながら不特定多数の者が受信・閲覧
できる方法はNGなので、本人宛の1対1の送信等
の方法によって明示しましょう。



出力して書面を作成できる状態とは、
一般的に出力可能な状態であれば、

労働者の個人的な事情によらず、
出力して書面が作成できると
認められます。

本人が希望していない場合は、
原則どおり書面での交付が必要
となりますのでご注意ください。

なお、メール・SNS等で送る場合は、
労働者が印刷・保存がしやすいように
添付ファイルでお送りされると良いです。

SMS(ショートメール)での明示も
禁止はされていませんが、

PDF等のファイルが添付できず、
文字数制限もあるため望ましくない
とされています。

<明示時期>

労働条件を明示するタイミングですが、
法律上は「労働契約の締結」の際と
されています。

ここでいう「労働契約の締結」というのが、
あいまいでわかりにくいですが、

一般的には、採用の内定を出した時点で
労働契約の締結とされています。

中小零細企業では、入社日以降に労働条件を
明示しているところが実態として多いですが、

トラブル防止の観点からも、内定の段階で
労働条件を明示することをおすすめしています。

人は自分に都合の良いように解釈してしまう
ことが多いので、入社後に言った言わないに
ならないように書面でしっかり明示しましょう。

<「期間の定めなし」の場合の明示時期>

正社員など「期間の定めなし」の労働者の
労働条件が昇給等で変更となるする都度、
契約書を交わす必要があるのか?

というご質問をよく受けます。

結論から申し上げますと、法律上は、
新しく雇入れたときだけでもOKです。

昇給等があった場合には、「給与辞令」
などの通知書を作成し、変更後の賃金が
わかるように対応している会社もあります。

ただし、給与が下がる場合など、労働者に
とって不利益な変更となる場合については

トラブル防止の観点からも、あらためて
書面で労働条件を明示されたほうがよいと
アドバイスさせてもらっています。

<「期間の定めあり」の場合の明示時期>

先ほど、正社員などの「期間の定めなし」
の場合は、法律上は、新しく雇入れたとき
だけでもOKとお伝えしました。

しかし、パート・アルバイトなど、
3か月や6か月ごとに契約更新するような
「期間の定めがある」場合については、

新しく雇入れたとき以外にも、
「契約更新」のタイミングでも、
労働条件を明示する必要があります。

定年後に再雇用する場合も、1年更新などの
有期雇用契約が多いですが、同じように
「契約更新」の都度、明示が必要です。

<明示事項のポイント>

労働条件の明示の方法として、
就業規則のコピーを交付することで
明示義務を果たすことも可能です。

ただし、労働者に適用する部分を
明確にしたうえで交付する必要が
あります。

そのため、就業規則のコピーだけで
労働者の労働条件を具体的に明示する
のは困難なため、

労働条件通知書の内容で、

「詳細は就業規則第●条による」

などの一文を入れて、

労働条件通知書と就業規則の該当箇所
のコピーをセットにして交付するのが
現実的です。

<労働契約の即時解除と帰郷旅費>

実際の労働条件が明示された労働条件
と相違する場合は、

労働者が即時に労働契約を解除できる
ことになっています。

また、労働者が入社のために
転居している場合は、

明示義務違反による契約解除で
入社日から「14日以内」に
帰郷する場合、

会社は帰郷旅費を負担しなければ
ならないとされています。

<まとめ>

私の今までの経験から、労働条件を明示して
いない原因として考えられるのは、

・そもそも法律を知らなかった
・面倒くさくて口頭だけで済ましている
・書面で約束できるような労働条件ではない
 ※現時点で法律違反を犯して働いてもらっている

などがあります。

労働条件を明示されていない企業では、
就業規則も作成されていないことが
多いです。

労務トラブルが発生した場合、まずは
労働条件通知書や就業規則などを確認
させて頂くのですが、

どちらも作成されていない場合は、
解決までに余計な時間とお金が
かかります。

売上や利益のために必死に現場で
活躍されている経営者の方などは
時間に余裕がないなかで、

社内の労務管理のことは後回しに
なってしまうお気持ちも理解できます。

ですが、実際に労務トラブルが発生
した場合、余計な時間とお金がかかる
だけではなく、

ここまで大事に育ててきた社員に
裏切られたと精神的苦痛に陥って
しまう経営者も多いです。

厳しいお話しをすると、そもそも
正しい労務管理をしてこなかった
我々経営者側に問題があるのですが。

労働条件通知書の作成には、
現時点では法律違反となって
しまっているため、

所定労働時間や休日、割増賃金の
支払方法などの見直しが必要かも
しれません。

もし、自社ではなかなか難しい
ようでしたら、経験豊富なプロ
にお任せください。

労務トラブルを事後対応ではなく
事前対応でしっかり予防して、

労働者が安心してイキイキ働ける
環境をつくっていくためにも

まずは、しっかり就業ルールを整えて、
労働条件通知書の作成と明示から
はじめていきましょう。